明日を運ぶ店|収入は十分あるのに、自営業でオートローンに通らなかった男性
2026/08/14
雨の国道八号線
六月の終わり、滋賀県守山市には朝から細い雨が降っていた。琵琶湖の方角から吹いてくる湿った風が、国道八号線を走る車の水しぶきを低く散らしていた。
「カーマッチ滋賀守山店」は、いつもと同じようにシャッターを開けた。展示車の屋根に残った雨粒を拭き、商談スペースの机を整え、今日来店するお客様の予定を確認する。目立つ動作ではない。けれど、その一つひとつが店の一日をつくっていた。
この店には、車だけが並んでいるのではない。
守山市で通勤に使う車を探す人。栗東市の職場へ毎朝向かう人。草津市で子育てをする人。大津市から相談に来る人。長浜市で雪の日にも動ける車を必要とする人。東近江市で家族の送迎を担う人。甲賀市の現場を回る職人。湖南市の工場へ通う人。
事情の違う人たちが、それぞれの明日を動かすために、この店の扉を開ける。
午前十時を少し過ぎたころ、一台の古い軽バンが駐車場へ入ってきた。白い車体には泥はねが残り、左後ろのスライドドアには長い擦り傷があった。エンジンが止まっても、運転席の男性はすぐには降りてこなかった。
店内からその様子を見ていた担当者は、急かさずに待った。
やがて男性は深く息を吐き、黒いファイルを抱えて車を降りた。四十二歳。名前は西村亮介。滋賀県甲賀市で住宅設備の修理と小規模なリフォームを請け負う個人事業主だった。
「予約していた西村です」
そう言った声には、雨の冷たさとは違う硬さがあった。
店は、その硬さの理由をまだ知らなかった。ただ、何かを断られた人が持つ、説明する前から身構えてしまう空気だけは感じ取っていた。
「お待ちしていました。どうぞ、こちらへ」
商談スペースに案内されても、西村はファイルを膝に置いたまま、しばらく開かなかった。
「先に言っておきますけど」
彼は机の木目を見つめながら言った。
「税金は払っています。借金だらけでもありません。仕事も、むしろ会社員のころより増えています」
担当者は、口を挟まずにうなずいた。
「去年の売上は千八百万円を超えました。経費を引いても、家族を養えるだけの収入はあります。それなのに、車のローンが通らなかったんです」
ファイルが開かれた。確定申告書、納税証明書、取引先からの入金履歴、工事の予定表。西村が自分の仕事を真面目に続けてきたことを証明する紙が、何枚も並んでいた。
「自営業だから、と言われたわけではありません。でも、結局はそういうことなんでしょうか」
窓の外で雨脚が少し強くなった。
カーマッチ滋賀守山店は、その問いに軽い答えを返さなかった。
審査の理由は一つとは限らない。収入額だけでなく、所得の見え方、事業年数、申告内容、既存の支払い、信用情報、申込条件、車両価格とのバランスなど、複数の要素が見られる。販売店が審査会社の判断理由を断定することもできない。
だからこそ、まず事情を聞く。それが、この店の仕事の始まりだった。
数字では測れない一年
西村が独立したのは三年前だった。
それまでは大津市に本社を置く設備会社で十八年間働いていた。給湯器の故障、水回りの修理、浴室の改装。滋賀県内の現場なら、地図を見なくても大まかな道順が分かった。
独立を決めた理由は、夢だけではなかった。
父が倒れ、甲賀市の実家近くで暮らす必要が生じたこと。二人の子どもが成長し、家族と過ごす時間を少しでも確保したかったこと。そして、現場でお客様の困りごとを聞きながら、自分の裁量では応えられない場面が増えていたこと。
「今日、お湯が出ないんです」
そう言われたとき、会社の予定表が埋まっているから一週間後になる、と伝えるのがつらかった。独立すれば楽になるとは思っていなかった。それでも、必要としている人のところへ、自分の判断で向かえる仕事がしたかった。
開業一年目は苦しかった。工具や部材をそろえる費用がかかり、売上が入る前に支払いが来た。軽バン一台で、守山市、栗東市、草津市、大津市、長浜市、東近江市、甲賀市、湖南市を走り回った。
二年目から紹介が増えた。丁寧な説明、見積もりの分かりやすさ、修理後の連絡。派手な広告よりも、一件の仕事を大切にした結果が次の依頼につながった。
三年目には、月によって波はあるものの、会社員時代を上回る収入になった。西村は胸を張れると思っていた。
ところが、仕事用の車を買い替えようとしたとき、最初の壁にぶつかった。
今の軽バンは走行距離が十九万キロを超えていた。エアコンの効きが悪く、坂道では異音がする。工具箱、脚立、配管部材を積むと、車体が沈み込むようになった。修理工場からは「次の車検までに大きな修理が必要になるかもしれない」と言われていた。
西村が欲しかったのは、見栄のための高級車ではない。長い脚立を積める荷室と、現場まで安全に走れる力を備えた中古の商用バンだった。
一台目に申し込んだオートローンは否決。販売店から詳しい理由は分からないと言われた。
二台目は価格を下げた。それでも通らなかった。
「十分な収入があるのに、なぜ」
西村は何度も考えた。
個人事業主の所得は、会社員の給与とは同じように見えないことがある。節税のために経費を適切に計上すれば、売上が大きくても申告上の所得は低くなる。独立から三年という期間を短いと判断する審査もあるかもしれない。前年より前々年の所得が低かったことも影響したのかもしれない。
けれど、理由が分からないまま断られると、自分の三年間すべてを否定されたように感じた。
「自営業の人には売らないと言われたわけじゃない。でも、結果だけ見れば同じです」
西村は商談席でそう言った。
担当者は、並べられた資料を一枚ずつ確認した。
「西村様のお仕事や努力が否定されたわけではありません。ただ、同じ内容でも審査先や申込条件によって見方が異なる場合があります。まず、今の状況を整理して、無理のない選択肢を一緒に考えましょう」
その言葉には、「絶対」という響きがなかった。
西村は少しだけ拍子抜けした。インターネットでは、もっと強い言葉を何度も見ていたからだ。
検索窓の向こう側
最初の否決から一週間、西村は夜になるたびスマートフォンで検索した。
「滋賀県 自社ローン 頭金なし」
「滋賀県守山市 自社ローン 通りやすい」
「滋賀県甲賀市 中古車販売店」
「滋賀県 中古車 オークション」
検索する言葉は、日に日に切実になった。
「自社ローン 絶対通る」
「自社ローン 金融ブラックOK」
西村自身に長期延滞や債務整理の経験があるわけではなかった。それでも、二度も否決されると、自分が知らないところで何か問題が起きているのではないかと不安になる。強い言葉ほど、暗い夜には明るく見えた。
だが、ページを開くと、良いことしか書いていない店もあった。誰でも買える、必ず通る、すぐ納車。安心するより、かえって怖くなった。
ローン審査に「絶対」はないはずだ。もし本当に誰でも通るなら、月々の支払いはいくらになるのか。車両の状態はどうなのか。保証や整備は含まれるのか。総額はいくらなのか。
西村は、言葉の強さではなく、説明の中身を見るようになった。
そこで見つけたのが、滋賀県守山市にあるカーマッチ滋賀守山店だった。
案内には、まず一般的なオートローンを検討し、状況に応じて信用回復ローン、それでも難しい場合に自社ローンを案内するという考え方が書かれていた。ローンに不安のある方も、まずは相談してほしい。お客様の過去だけでなく、今の収入とこれからの支払計画を重視して一緒に考える。
「絶対通る」とは書かれていなかった。
「金融ブラックOK」とも書かれていなかった。
むしろ、審査結果や契約条件は一人ひとり異なり、希望に添えない場合もあると記されていた。
西村は、その慎重さに引かれた。
問い合わせフォームに名前と連絡先を入力し、最後の欄に短く書いた。
〈収入はありますが、自営業のためかオートローンに二度落ちました。仕事用の中古車を探しています。相談できますか〉
送信ボタンを押すまでに、十分ほどかかった。
翌日、店から連絡があった。
「もちろんご相談いただけます。ただし、審査の可決をお約束することはできません。現在の状況、ご希望の車、無理なく支払える金額を確認したうえで、選択肢を整理させてください」
西村は、その返事を三度読み返した。
約束はされていない。それなのに、断られた感じがしなかった。
店が最初に売ったもの
来店初日、カーマッチ滋賀守山店が西村に見せたのは、車のカタログではなかった。
一枚の白い紙だった。
紙の中央には「現在」「必要」「支払」の三つの項目が書かれていた。
現在の車は、いつまで使えそうか。毎月の収入と支出にはどの程度の幅があるか。仕事の入金日はいつか。繁忙期と閑散期はいつか。今後一年で大きな支出予定はあるか。
必要な車には、どのくらいの荷室が要るか。何人乗るのか。年間走行距離はどれくらいか。高速道路を使う頻度は。雪道を走る地域は。絶対に必要な装備と、あれば便利な装備は何か。
支払いについては、頭金を用意できるか。毎月いくらなら、売上が少ない月でも無理がないか。税金や車検、保険、燃料代、消耗品を含めて維持できるか。
「車種を決める前に、ここまで聞くんですね」
西村が言うと、担当者は笑った。
「買える車と、持ち続けられる車は、同じとは限りませんから」
西村は、月々五万円程度なら払えると考えていた。繁忙期だけを見れば、もっと払える。しかし、冬場に工事が減った年もあった。子どもの進学費用も控えている。
話し合った結果、安全を見るなら月々三万円台までに抑えたいという結論になった。
「頭金なしで探せますか」
「頭金なしのご相談もできます。ただ、頭金の有無によって借入額や月々の負担、選べる車両が変わる場合があります。ゼロにすることだけを目標にせず、手元資金を残すこととのバランスを見ましょう」
西村は二十万円なら出せると言った。だが店は、全額を頭金に入れるよう勧めなかった。
古い軽バンが突然故障する可能性。新しい車が来るまでの代車や修理。事業の仕入れ。家族の急な出費。自営業者にとって、現金が手元にあることは仕事を続ける力でもある。
最終的に、頭金は十万円を上限に検討し、残りは事業の予備資金として残すことになった。
その日、店が最初に売ったものは車ではなかった。
西村が自分の状況を正しく見直すための、時間だった。
三つの道
カーマッチ滋賀守山店は、西村の前に三つの道を並べた。
一つ目は、オートローンを改めて検討する道。
過去に否決された事実だけで、すべての可能性がなくなるわけではない。ただし、短期間に無計画な申込みを重ねるのは避けるべきだ。車両価格、頭金、申込内容、事業実績の資料などを整え、なぜその車が仕事に必要なのかも含めて、正確な情報で相談する。
二つ目は、信用回復ローンを検討する道。
一般的なオートローンとは異なる考え方で、現在の支払能力や今後の計画を重視する商品がある。ただし、これも誰でも利用できるわけではない。審査があり、金利や手数料、必要な機器、所有権、支払期間などの条件を確認する必要がある。
三つ目は、自社ローンを検討する道。
販売店と購入者の間で分割払いの契約を結ぶ方法で、一般の信販会社を利用するオートローンとは仕組みが異なる。過去の信用情報だけではなく、現在の収入、生活状況、連絡体制、毎月の支払計画などを確認する。一方で、車両価格、手数料、保証、支払回数、所有権など、契約内容を一つずつ理解することが欠かせない。
「西村様の場合、最初から自社ローンだけに決める必要はないと思います」
担当者はそう話した。
「でも、他の店では自営業なら難しいと言われました」
「自営業であることだけで結論を出すのではなく、申告上の所得、直近の入金、事業の継続性、支出とのバランスを見ましょう。一般のオートローンが難しい場合には、次の選択肢を検討します」
西村は、信用回復ローンという言葉を検索した。
「滋賀県 信用回復ローン 頭金なし」
「滋賀県守山市 信用回復ローン 中古車」
「滋賀県甲賀市 信用回復ローン 通りやすい」
そこにも「絶対通る」「金融ブラックOK」という強い検索候補が表示された。
だが店は改めて説明した。
「どの方法にも審査や確認があります。『絶対通る』とは言えませんし、私たちも言いません。大切なのは、通るように見せることではなく、西村様が事実に基づいて申込み、納得できる条件で契約することです」
その言葉は厳しいようでいて、西村には優しかった。
断る可能性まで正直に話す店は、契約した後のことも考えている。そう思えたからだ。
中古車オークションの海
資金計画が見えてくると、次は車探しだった。
西村の希望は明確だった。長尺物を積めること。後部座席をたためること。高速道路で安定して走れること。できれば四輪駆動だが、予算を大きく超えるなら二輪駆動でもよい。色にはこだわらない。見た目より、整備状態を重視する。
店頭に条件の合う車はなかった。
「ないなら、今回は諦めるしかないですか」
「全国の中古車オークションも含めて探せます。ただし、出品票だけで決めず、状態や修復歴、走行距離、下回り、車内の使われ方を確認しながら候補を絞ります」
カーマッチ滋賀守山店は、滋賀県の一店舗でありながら、探す範囲を守山市の展示場だけに限定していなかった。
中古車オークションには、毎週、多くの車が出品される。同じ年式、同じ走行距離でも、使われ方は一台ずつ違う。商用車ならなおさらだった。きれいに見えても荷室に強い損傷がある車。走行距離は少なくても長期間動かされていない車。外装には傷があっても、定期整備を受けてきた車。
価格だけで選べば、購入後の修理費が膨らむことがある。評価点だけで決めても、仕事の用途に合わないことがある。
店は最初の一週間で六台を候補に挙げた。
一台目は安かったが、下回りの錆が多かった。長浜市や県北部へ行く仕事を考えると慎重になった。
二台目は内外装がきれいだったが、荷室の高さが足りず、脚立の積み方に無理があった。
三台目は条件が良かったが、総額が予算を超えた。
四台目は走行距離が少ない一方、整備記録が乏しかった。
五台目は西村が気に入った。黒いボディーで見栄えがよく、装備も充実していた。しかし店は、必要以上の装備にお金を払うことになると伝えた。
「仕事で使うんだから、少しくらい格好いい方が信用されませんか」
「清潔に保つことは大切です。でも、黒は傷や水あかが目立ちやすく、現場で使うには手入れの負担もあります。西村様のお客様が見るのは、車の色より、時間を守ることや仕事の丁寧さではないでしょうか」
西村は笑った。
「確かに、今の傷だらけの軽バンでも仕事は増えました」
六台目は銀色の商用バンだった。年式は新しすぎない。走行距離は八万キロ台。外装に小傷はあるが、定期点検の記録が残っている。荷室には使用感があるものの、床の大きな変形はない。希望していた四輪駆動ではなかったが、予算内でタイヤや整備に費用を回せる。
店は良い点だけでなく、気になる点も伝えた。
左側面の補修歴。バックドア内側のへこみ。運転席シートの擦れ。今後交換が想定される消耗品。
西村は写真を拡大し、何度も見た。
「これなら、道具を積んで走る姿が想像できます」
店はすぐに落札へ進まなかった。概算の車両代、落札関連費用、陸送、登録、点検整備、税金、保険を含めた総額を示し、ローンの条件が決まってから最終判断することにした。
車を探すことと、買うことは同じではない。
カーマッチ滋賀守山店は、期待が高まったときほど、その間に一本の線を引いた。
書類が語る仕事
審査に向け、西村は必要な資料をそろえた。
本人確認書類。住民票。確定申告書。納税証明書。直近の通帳の入金履歴。主要取引先との契約内容。今後数か月の受注予定。現在の借入れと毎月の支払い。家賃や住宅ローン、生活費。
「ここまで出すのは、正直、抵抗があります」
西村は言った。
「お気持ちは分かります。必要な範囲と目的をご説明します。分からない点は、提出前に必ず聞いてください」
店は、資料の量で人を評価しなかった。数字の意味を、西村と一緒に確認した。
売上が大きく増えた月は、大津市の集合住宅で給湯器交換をまとめて請け負った月だった。反対に売上が落ちた月は、事故や病気ではなく、部材の納期遅れで工事が翌月へずれ込んだことが原因だった。
通帳には、守山市の管理会社、栗東市の工務店、草津市の不動産会社、湖南市の製造会社、東近江市の福祉施設などからの入金が並んでいた。西村の仕事が一社だけに依存していないことも分かった。
一方で、課題もあった。
事業用と生活用の口座が完全には分かれておらず、お金の流れが見えにくい。税金の支払い月には残高が大きく減っていた。売上の多い月に機材を一括購入し、翌月の資金が薄くなる癖もあった。
「収入は十分あると思っていました。でも、こうして見ると、残し方が下手ですね」
「稼ぐ力と、毎月安定して支払える形は別の問題です。今回の車をきっかけに、事業のお金を整理できれば、それは今後の信用にもつながります」
カーマッチ滋賀守山店は税理士ではない。経営指導をする店でもない。だから、専門家の判断が必要なことは断定しなかった。
ただ、車の支払いが事業を圧迫しないかを見るために、毎月の流れを一緒に整理した。
西村は、事業用口座と生活用口座を分けることにした。売上が入ったら、税金用、仕入れ用、生活費、車両費に分ける。車の支払いは、繁忙月の収入ではなく、売上の少ない月でも継続できる金額を基準にする。
申込書を書くとき、店は小さな間違いもそのままにしなかった。
開業年月。前年度所得。現在の借入残高。居住年数。電話番号。
よく見せるために数字を変えることはしない。分からない箇所を推測で埋めない。事実を正確に書き、補足できる資料を添える。
「前の販売店では、年収欄に売上を書けばいいと言われました」
「売上と所得は意味が違います。審査先の記入方法を確認し、正しい数字を使いましょう」
西村は、自分が否決された理由を誰かのせいにしたかったわけではない。ただ、今度こそ、自分の仕事を正しく見てもらえる形にしたかった。
紙の束は、単なる審査書類ではなかった。
雨の日も雪の日も、滋賀県を走って積み上げた三年間が、数字になって並んでいた。
待つ時間にも店の仕事がある
申込みを終えると、待つ時間が始まった。
西村にとって、それは一番苦手な時間だった。
修理の仕事なら、故障箇所を探し、部品を交換し、動作を確認できる。だが審査は、自分の手を動かして早くできるものではない。
申込みの翌日、軽バンの警告灯が点いた。
甲賀市から東近江市の現場へ向かう途中だった。路肩に止め、エンジンをかけ直すと表示は消えた。しかし、不安は消えなかった。
もし車が止まれば、仕事に行けない。仕事に行けなければ、収入が減る。収入が減れば、新しい車の支払いも難しくなる。
焦りが、悪い想像を連れてきた。
西村は店へ電話した。
「まだ結果は出ませんか」
「現在確認中です。追加資料が必要になった場合はすぐご連絡します。お車の警告灯については、安全のため無理に走らず、整備工場で確認してください」
「候補の車、誰かに買われませんか」
「可能性はあります。ただ、審査結果が決まる前に無理な契約を進めることはできません。別の車になっても条件に合う一台を探し続けます」
西村は、電話を切った後で少し腹を立てた。
もっと安心させてくれてもいいのに、と思った。
しかし、店が「大丈夫です」と言わない理由も分かっていた。大丈夫かどうかが決まっていないからだ。
二日目、店から追加確認の連絡があった。直近の大口入金が一時的なものか、今後も同程度の仕事が見込まれるのか。西村は工事予定表と取引先からの発注メールを用意した。
三日目、連絡はなかった。
四日目の朝、西村は検索窓に「信用回復ローン 絶対通る」と打ち込みかけ、手を止めた。
いま欲しいのは、根拠のない安心ではない。どの結果になっても、次に何をすればよいか分かることだ。
その日の夕方、店から電話があった。
「西村様、まず一般のオートローンについては、今回もご希望に添えない結果となりました」
西村は、作業場の椅子に座った。
予想していた。それでも、胸の奥が沈んだ。
「やっぱり、自営業だからですか」
「理由を一つに断定することはできません。ただ、ここで終わりではありません。ご相談していた信用回復ローンについて、次の確認へ進める可能性があります。条件を説明しますので、一度、店舗でお話ししませんか」
電話の向こうから、雨上がりのような明るさが差した。
可決したわけではない。
それでも、「次」があった。
条件を読む
二度目の来店の日、守山市の空はよく晴れていた。
店は、信用回復ローンの仕組みと想定条件を説明した。月々の支払額だけでなく、支払回数、総支払額、手数料、必要となる機器や管理条件、所有権、途中で支払いが難しくなった場合の連絡方法、完済後の手続き。
西村は、月額だけを見れば払えると思った。
しかし総支払額を見ると、車両本体価格との差に驚いた。
「中古車なのに、こんなに払うんですか」
「分割払いには費用がかかります。だからこそ、車両価格だけでなく総額をご確認いただきたいです。条件に納得できなければ、契約しないという選択もあります」
店は、契約を急がせなかった。
候補車両も見直した。最初に気に入った銀色のバンは、競り上がる可能性があり、上限を超えてまで追わないと決めた。同じ用途で、価格を少し抑えられる別の車種も比較した。
西村の妻、絵里も商談に参加した。
「主人は、仕事のことになると無理をします」
開口一番、絵里はそう言った。
「壊れそうな車で走り続けるのも心配です。でも、新しい支払いで家計が苦しくなるのも困ります」
担当者は、西村だけでなく絵里にも同じ説明をした。
車が必要な理由。支払いが増える期間。維持費。事業の売上が下がった場合の備え。頭金を入れる場合と入れない場合の違い。
「自社ローンなら頭金なしで必ず買える、という意味ではないんですね」
絵里が確認した。
「はい。頭金なしでご相談できる場合はありますが、審査や車両、契約条件によります。自社ローンも信用回復ローンも、誰にでも同じ条件になるものではありません」
「ネットで『金融ブラックOK』と書いてある店も見ました」
「分かりやすく見える言葉ですが、状況はお客様ごとに違います。過去に支払いの遅れなどがあった方も相談できる可能性はありますが、無条件で購入できるという意味ではありません。当店では、誤解を招く約束はしません」
絵里は、静かにうなずいた。
家に帰った二人は、子どもが寝た後、食卓に資料を広げた。
西村は車が欲しかった。いや、必要だった。だが、必要だからこそ焦ってはいけない。
二人は、売上が三割落ちた月を想定した。固定費と生活費を引き、車両費を払っても予備資金を残せるか。冬のタイヤ交換、翌年の税金、任意保険、車検費用を月割りで積み立てられるか。
翌日、西村は店に電話した。
「条件を理解したうえで、信用回復ローンの審査をお願いしたいです。月々の上限は、最初に決めた金額を超えないようにしてください」
それは、車を手に入れるための電話ではなかった。
車を持ち続ける責任を引き受けるための電話だった。
店の灯り
カーマッチ滋賀守山店には、派手な奇跡を起こす力はない。
審査結果を書き換えることはできない。傷のある中古車を新車に変えることもできない。支払えない金額を、払える金額に見せることもできない。
店にできるのは、見えにくい事情を整理し、必要な資料をそろえ、車両と支払いの条件を調整し、選択肢を正確に伝えることだった。
それは地味な仕事だ。
しかし、人が不安の中にいるとき、正確な説明は灯りになる。
西村の審査を待つ間にも、店にはさまざまな相談が届いた。
守山市の会社員からは、転職直後でも中古車を買えるかという相談。
栗東市の母親からは、頭金を多く用意できないが、子どもの送迎に車が必要だという相談。
草津市の若い夫婦からは、車両価格だけでなく維持費も含めて選びたいという相談。
大津市の自営業者からは、確定申告の所得が低く見えることへの不安。
長浜市の介護職員からは、冬に備えて四輪駆動車を探したいという依頼。
東近江市の職人からは、工具を積める中古車を全国オークションで探してほしいという依頼。
湖南市の工場勤務者からは、過去の支払い遅れがあるが、現在の状況で相談できるかという問い合わせ。
甲賀市からは、西村のように、仕事で毎日使う車が限界に近づいているという連絡。
一件ごとに、答えは違った。
オートローンで進められる人。信用回復ローンを検討する人。自社ローンの条件を確認する人。今は購入を見送り、頭金や生活資金を準備する人。希望車種を変える人。価格帯を下げる人。
店にとって、契約だけが成功ではなかった。
無理な購入を止めることもある。説明を聞いたうえで持ち帰ってもらうこともある。審査に進めないと伝えなければならない日もある。
それでも、相談した人が「自分の次の一歩」を理解して帰れるなら、店の役割は残る。
夜、最後のお客様を見送った後も、商談スペースの灯りは消えなかった。
西村が候補にしている車の資料を見直す。落札上限を確認する。整備費用の余白を計算する。別の候補が出品されていないか探す。
店は眠らないわけではない。
ただ、誰かの明日を運ぶ車を扱う以上、今日のうちに確認しておくべきことがあると知っていた。
一本の電話
審査を申し込んでから六日目。
西村は長浜市の現場にいた。
築年数の古い住宅で、浴室の混合水栓を交換していた。工具を置いた瞬間、胸ポケットのスマートフォンが震えた。画面には「カーマッチ滋賀守山店」と表示されていた。
手袋を外し、外へ出た。
琵琶湖の北から吹く風は、六月とは思えないほど涼しかった。
「西村様、お待たせしました」
担当者の声は、いつもと同じ落ち着いた調子だった。
西村は、その調子から結果を読み取ろうとした。
「ご相談していた内容で、信用回復ローンの手続きを進められることになりました」
西村は返事をしなかった。
聞き間違いかと思った。
「……通ったんですか」
「現時点では、提示された条件で次の手続きへ進めるという結果です。ただし、これで車の購入がすべて確定したわけではありません。車両の確保、正式な見積もり、契約内容の再確認、必要書類、点検整備、登録があります」
最後まで慎重な説明だった。
それでも、西村の目の奥が熱くなった。
「ありがとうございます」
声がかすれた。
「店のおかげです」
「西村様が資料をそろえ、正確に状況を伝えてくださったからです。ここからも一つずつ確認して進めましょう」
電話を切ると、西村は空を見上げた。
審査に進めたことが、自分の価値を証明するわけではない。否決されたからといって、価値がなかったわけでもない。
それでも、閉じていた扉が一つ開いたことは確かだった。
現場へ戻ると、家主の老夫婦が心配そうに見ていた。
「何かありましたか」
「仕事の車を買い替えられそうなんです」
「それはよかった。今の車、ずいぶん頑張ってるものね」
西村は笑った。
古い軽バンは、何度も修理しながら三年間を支えてくれた。否定するべき過去ではなかった。新しい車は、それを捨てるためではなく、受け取った仕事を次へ運ぶために必要なのだ。
落札の朝
審査結果が出た後、店と西村は車両の最終選定に入った。
最初に候補だった銀色のバンは、すでに別の買い手に落札されていた。
西村は落胆した。
「あれが一番よかったのに」
「条件に近い車を探します。焦って次の一台を選ばないようにしましょう」
数日後、別の会場に白い商用バンが出品された。
走行距離は九万二千キロ。年式は銀色の車より一年古い。外装には仕事車らしい小傷があり、荷室にも擦れがあった。しかし、整備記録は比較的そろっていた。前の所有者が法人で、定期的に点検を受けていた履歴が確認できた。
価格は抑えられ、その分、納車前の消耗品交換に予算を回せる。
店は写真と出品情報を見せ、懸念点を説明した。
「左後部に補修があります。現車確認で状態を見ますが、仕事用として許容できるかを考えてください。あと、タイヤは早めの交換をおすすめします」
「白なら社名も入れやすいですね」
西村は、車の側面に自分の屋号が入る姿を想像した。
落札当日の朝、上限金額を最終確認した。
「あと少しで買えそうなら、上げてもいいです」
「上限を超えると、月々の負担か頭金が増えます。昨日決めた金額を守ります」
競りは数十秒で進んだ。
価格が上がる。店は上限まで応札した。一度止まり、再び上がり、最後に相手の動きが止まった。
落札。
店から届いた短い連絡を見て、西村は作業場で拳を握った。
だがカーマッチ滋賀守山店にとって、落札はゴールではなかった。
車が届くと、出品情報と相違がないか確認した。外装、内装、エンジンルーム、下回り、電装品。試運転では異音、直進性、ブレーキ、変速の状態を見る。
点検の結果、当初予定していたオイル類とワイパーに加え、ブレーキパッドとバッテリーの交換を提案した。
「追加費用になりますが、安全に関わる部分です。交換せずに納めることもできます、とは言いにくい状態です」
西村は見積もりを確認した。
車両価格を抑えたことで、予算内に収まっていた。
「お願いします。仕事を運ぶ車ですから」
契約書への署名前、店はもう一度、支払総額と毎月の金額、支払日、所有権、遅れそうな場合の連絡、保証範囲を説明した。
西村は、分からない言葉に印をつけ、一つずつ質問した。
以前の彼なら、早く車が欲しくて読み飛ばしていたかもしれない。
今は違った。
明日を運ぶには、今日の約束を理解しなければならない。
納車の日
七月の朝、守山市の空には夏の雲が浮かんでいた。
カーマッチ滋賀守山店の前に、白い商用バンが置かれていた。洗車された車体はまぶしく、フロントガラス越しの運転席は、これから始まる時間を待っているようだった。
西村は妻の絵里と二人で来店した。
車を見つけると、歩く速度が少し速くなった。
「写真より、ずっといいですね」
外装の小傷は消えていない。荷室の擦れも残っている。新車のようではなかった。
けれど、必要な整備を終え、道具を積み、滋賀県内を走る準備ができていた。
担当者は、車の周りを一緒に回った。
補修箇所。傷。タイヤ。エンジンオイル。ブレーキ。バッテリー。スペアキー。取扱説明書。保証の対象と対象外。日常点検の方法。異常を感じたときの連絡先。
納車の日は、喜びだけを演出する日ではない。
中古車の状態と、これからの責任を受け渡す日だ。
「最後に、もう一度だけお伝えします。支払いが遅れそうなときは、期日を過ぎてからではなく、分かった時点でご連絡ください。連絡がないことが、一番対応を難しくします」
「分かりました」
西村はまっすぐ答えた。
絵里が、荷室をのぞき込んだ。
「これなら脚立も工具も、きれいに整理できそう」
「今度は積みっぱなしにしないよ」
「それ、前の車のときも言ってた」
二人が笑うと、店内の空気がほどけた。
鍵を受け取る前、西村は少し迷ってから言った。
「最初にここへ来たとき、車を売ってくれる店を探していました。でも、実際には、買っても大丈夫かを一緒に考えてくれる店が必要だったんだと思います」
担当者は鍵を差し出した。
「これからが始まりです。安全運転で、お仕事頑張ってください」
エンジンがかかった。
古い軽バンより低く、落ち着いた音だった。
西村はハンドルを握り、駐車場から国道へ出た。バックミラーの中で、カーマッチ滋賀守山店の看板が少しずつ小さくなっていく。
店は見送った。
一台の販売が終わったのではない。
一人のお客様が、自分で決めた明日へ走り出したのだ。
白いバンが運んだもの
納車の翌週、西村は白いバンで草津市の現場へ向かった。
工具棚を荷室に固定し、脚立を天井近くへ収納した。部材ごとに箱を分けたことで、探し物の時間が減った。高速道路でも車体は安定し、移動後の疲れが軽くなった。
仕事の件数が急に増えたわけではない。
けれど、一日に回れる現場が一件増える日があった。急な依頼にも必要な部材を積んだまま向かえるようになった。長浜市への長距離移動でも、古い車の警告灯を気にし続ける必要がなくなった。
何より、西村の気持ちが変わった。
車が止まるかもしれないという不安は、仕事の判断を小さくしていた。遠方の依頼を断り、夕方の緊急対応をためらい、新しい取引先への訪問を後回しにしていた。
白いバンは、仕事そのものを生み出したのではない。
西村が持っていた力を、必要な場所まで運べるようにした。
三か月後、車体の両側には小さく屋号が入った。派手なデザインではない。青い文字で、設備修理と緊急対応の電話番号が記されている。
栗東市の工務店で、担当者が言った。
「車、替えたんですね。きちんとした感じになりましたね」
西村はうれしかったが、同時に思った。
きちんとしたのは、車だけではない。
事業用と生活用の口座を分けた。税金と車検の積立を始めた。毎月の支払日前に残高を確認するようになった。売上が多い月にも、すぐ機材を買わず、三日考えることにした。
信用は、審査結果の紙に突然現れるものではない。
時間を守る。約束した金額を払う。連絡を返す。分からないことを確認する。無理なときは早く相談する。
小さな行動の積み重ねが、見えない道をつくっていく。
半年後、西村は点検のためカーマッチ滋賀守山店を訪れた。
「調子はどうですか」
「よく走ってくれています。もう一万二千キロ乗りました」
「かなり走りましたね」
「守山、栗東、草津、大津、長浜、東近江、甲賀、湖南。滋賀県をほとんど一周する週もありますから」
店は走行距離だけでなく、支払いの状況も確認した。
遅れはなかった。
「無理なく続けられていますか」
「はい。売上が少ない月でも払える金額にしてもらった意味が、今になって分かります」
西村は、商談スペースの壁に貼られた案内を見た。
〈ローンに不安のある方も、まずはご相談ください〉
短い言葉だった。
そこには、「誰でも」「必ず」「絶対」という言葉はない。
けれど西村にとっては、その案内の方がずっと力強かった。
一本の遅れそうな連絡
納車から八か月が過ぎた二月、滋賀県には強い寒波が来た。
長浜市では雪が積もり、東近江市や甲賀市の山沿いでも道路が白くなった。凍結による給湯管の破損が相次ぎ、西村の電話は朝から鳴り続けた。
仕事が多いなら、売上も増える。以前の西村なら単純にそう考えていただろう。
しかし、その月は事情が違った。
部材の仕入れが先に膨らみ、大口の取引先からの入金が翌月へずれた。作業は終わっている。請求書も出している。それでも、口座へお金が入る日は変えられない。
車の支払日まで、あと五日。
予定どおりなら足りるはずだった。ところが、白いバンのタイヤが一本損傷し、急きょ二本を交換することになった。さらに、子どもが発熱し、絵里が数日仕事を休んだ。
西村は夜、事業用口座の残高を何度も確認した。
あと数万円。
支払日までに小口の入金があれば間に合う。現金で受け取る予定の仕事もある。たぶん大丈夫だと思った。
だが、納車の日に言われた言葉がよみがえった。
〈支払いが遅れそうなときは、期日を過ぎてからではなく、分かった時点でご連絡ください〉
連絡したら、信用がなくなるのではないか。
車を取り上げられるのではないか。
せっかくここまで遅れずに払ってきたのに、困っていると知られるのが恥ずかしい。
西村は電話を手に取り、置いた。
翌朝も、かけられなかった。
その日、湖南市の工場で配管修理をしていると、予定していた現金払いが振込みに変更された。入金は一週間後になるという。
支払日に間に合わない可能性が高くなった。
西村は白いバンの運転席に座り、しばらくエンジンをかけなかった。フロントガラスの向こうに、工場の煙突から上がる白い蒸気が見えた。
それから、カーマッチ滋賀守山店へ電話した。
「すみません。今月の支払いが、数日遅れるかもしれません」
言葉にすると、胸が苦しくなった。
店は責めなかった。もちろん、軽く扱うこともしなかった。
現在の残高、確実な入金予定日、遅れる可能性のある日数、来月以降への影響を確認した。契約上必要な対応を説明し、約束できる日を曖昧にしないよう伝えた。
「黙っていた方が、まずかったですか」
「はい。早くご連絡いただけたので、状況を確認できます。約束した日に難しいと分かった時点で相談することは、信用を守る行動です。ただし、連絡すれば支払いがなくなるわけではありません。決めた内容は必ず守ってください」
西村は、少しだけ肩の力が抜けた。
入金予定日の翌日を支払日として確認し、必要な手続きを取った。数日後、取引先から予定どおり入金があり、西村は約束した日に支払った。
終わってみれば、短い遅れだった。
しかし、西村にとっては大きな出来事だった。
信用とは、一度も困らないことではない。
困ったときに隠さないこと。できない約束をしないこと。話し合って決めた約束を守ること。その積み重ねでもあるのだと知った。
翌月から、西村は事業口座に「車両費三か月分」を最低残高として残すことにした。大口入金が遅れても、支払いと燃料代、最低限の整備費を確保できるようにする。タイヤや車検の積立も別にした。
店は一台の車を売った後も、西村の生活を管理するわけではない。
けれど、契約で結ばれている間、連絡を受け、事実を確認し、必要なことを伝える責任がある。
優しさとは、何をしても大丈夫だと言うことではなかった。
約束の意味を曖昧にせず、それでも相談できる扉を閉めないことだった。
春になり、西村が定期点検で来店したとき、あの月の話をした。
「電話するのが、審査のときより怖かったです」
「早めにご連絡いただけてよかったです」
「あれから、入金される予定のお金は、入るまで残高として数えないことにしました」
「自営業の資金管理では大切ですね。車も事業も、余白がある方が長く続けられます」
西村は、店の駐車場に止めた白いバンを見た。
車体には細かな傷が増えていた。それは、守山市や栗東市、草津市、大津市、長浜市、東近江市、甲賀市、湖南市の現場を走った記録だった。
傷が増えても、約束は減らさない。
そのための車であり、そのための支払いだった。
次のお客様
冬の始まり、カーマッチ滋賀守山店に一人の女性が来店した。
滋賀県湖南市で小さな弁当店を営む三十六歳の女性だった。売上は安定していたが、開業から二年。配達用の車を買い替えようとして、オートローンの審査に通らなかったという。
女性は商談席に座るなり、早口で話した。
「収入はあるんです。遅れた支払いもありません。自営業だから駄目なんでしょうか。ネットで『自社ローンなら絶対通る』って見たんですけど、本当ですか」
店は、一年前の西村にしたのと同じように、すぐ車を勧めなかった。
「自社ローンでも確認や審査はありますので、必ずとはお約束できません。まず、現在の状況と必要なお車、無理のない支払額を一緒に整理させてください」
女性の表情が曇った。
そのとき、駐車場に白い商用バンが入ってきた。
西村だった。
点検後に気になった小さな音を相談しに来たのだ。店が対応している間、西村は女性の不安そうな横顔を見た。詳しい事情は聞こえなかったが、机の上に確定申告書が置かれているのが見えた。
帰り際、西村は店の入口で振り返った。
「ここ、話を聞いてくれる店ですよ」
女性は驚いて顔を上げた。
「僕も自営業で、ローンが通らなくて来たんです。すぐに大丈夫とは言ってくれませんでしたけど、その方が後で安心できました」
それだけ言って、西村は店を出た。
白いバンが国道へ走り去る。
女性は、その後ろ姿をしばらく見ていた。
「あの人も、買えたんですか」
「はい。ただし、あの方と同じ結果や条件になるとは限りません。お一人ずつ状況が違いますから」
「分かりました。まず、話を聞いてください」
店は新しい白い紙を一枚出した。
中央には「現在」「必要」「支払」の三つの項目があった。
季節が変わっても、店の始め方は変わらなかった。
信用は道のように続く
白いバンを購入してから二年がたったころ、西村の事業には一つの変化があった。
以前勤めていた会社の後輩が独立を考え、西村のもとで働き始めたのだ。最初は週に数日、現場を手伝うだけだったが、半年後には正式な従業員になった。
一人で走っていたころと違い、車がもう一台必要になる日が見えてきた。
西村は、すぐに新しいローンへ申し込まなかった。事業計画を作り、人件費、社会保険、工具、車両費を計算した。白いバンの支払い履歴を確認し、次の車を持っても運転資金を残せる時期を考えた。
二年前なら、「仕事が増えたから買える」と考えていただろう。今は、「仕事が減った月にも二台を維持できるか」と考える。
相談先は、同じ店だった。
カーマッチ滋賀守山店の商談席に座ると、担当者は懐かしい白い紙を出した。
「また、これからですか」
「状況が変わりましたから、もう一度です」
現在。必要。支払。
二年前と同じ三つの言葉でも、書き込む内容は違っていた。
現在の欄には、二年間の売上推移、従業員の給与、白いバンの維持費、積み立てた事業資金。必要の欄には、二人が別々の現場へ行ける小型車、工具を安全に固定できる荷室、燃費。支払の欄には、既存の負担と重ならない時期、繁忙期に頼らない月額、故障時の予備費。
「今度は、オートローンも改めて相談してみましょう」
店は言った。
過去に通らなかったからといって、永遠に同じ結果とは限らない。事業の継続年数が伸び、所得の推移が安定し、支払いの実績が積み重なれば、見られ方が変わる可能性がある。ただし、今回も結果を保証することはできない。
西村は笑った。
「分かっています。絶対なんてない。でも、準備できることはある」
その言葉を聞いたとき、店は二年前の雨の日を思い出した。
自営業だから駄目なのかと、硬い声で問いかけた人。たくさんの書類を、盾のように抱えていた人。強い検索語の中から、慎重な説明をする店を選んだ人。
白いバンが運んだのは、今日の仕事だけではなかった。
毎月の約束を守った時間が、次の相談へ続く道になっていた。
後輩は、店の外で白いバンを眺めながら言った。
「この車、まだ乗るんですか」
「もちろん。これは僕が乗る。次の車は君が大事に使ってくれ」
西村は車体の小傷を指でなぞった。
傷の一つひとつに、向かった現場がある。守山市の朝、栗東市の雨、草津市の渋滞、大津市の湖岸、長浜市の雪、東近江市の田園、甲賀市の山道、湖南市の工場。
車は古くなっていく。
けれど、きちんと整備し、無理のない支払いを続け、役割に合った使い方をすれば、古くなることと価値を失うことは同じではない。
人の信用も、きっと同じだった。
一度の審査結果で終わるものではない。今日の行動が明日の記録になり、明日の記録がその先の選択肢につながる。
店は再び、西村と一緒に書類を整え始めた。
明日を運ぶ店
滋賀県守山市にあるカーマッチ滋賀守山店は、魔法の店ではない。
オートローンに必ず通すことはできない。信用回復ローンが絶対に利用できるとも言えない。自社ローンなら誰でも頭金なしで中古車を買える、と約束することもない。
「絶対通る」「金融ブラックOK」「通りやすい」――不安な夜、人は強い言葉を検索する。
その気持ちを、店は否定しない。
車がなければ仕事へ行けない人がいる。子どもを送れない人がいる。親の通院を支えられない人がいる。滋賀県では、守山市から栗東市へ、草津市から大津市へ、甲賀市から湖南市へ、東近江市から長浜市へと、暮らしも仕事も車によってつながっている。
だからこそ、焦りにつけ込む言葉ではなく、現実に続く道を示したい。
最初に一般のオートローンを検討する。難しい場合には、現在の支払能力や今後を重視する信用回復ローンの可能性を確認する。さらに状況に応じて、自社ローンの条件を検討する。
頭金なしの相談ができる場合もある。全国の中古車オークションから、希望と予算に合う車を探せる場合もある。店頭に希望車がなくても、すぐに終わりとは限らない。
けれど、どの方法にも確認があり、審査があり、契約がある。
大切なのは、買えるように見せることではない。
車両価格、諸費用、総支払額、月々の負担、維持費、整備、保証、所有権、支払期間を理解し、その車を持ち続けられるかを考えることだ。
西村は、収入が十分にあった。
それでもオートローンには通らなかった。
その結果は、彼の仕事の価値を決めるものではなかった。ただ、これまでの伝え方やお金の流れ、車両価格との組み合わせでは、希望した審査の基準に合わなかったという一つの結果だった。
カーマッチ滋賀守山店は、その結果を消さなかった。
代わりに、結果の先へ続く道を一緒に探した。
書類を整えた。売上と所得の違いを確認した。繁忙期ではなく、売上の少ない月を基準に支払額を決めた。頭金をすべて出さず、事業を守る現金を残した。中古車オークションで車を探し、価格だけでなく状態を見た。契約の良い面も負担も説明した。
そして、西村は自分で選んだ。
納車から一年後、白いバンは滋賀県内を走り続けていた。
夏の守山市。夕立の栗東市。渋滞する草津市。湖岸の風が吹く大津市。雪の残る長浜市。田園の広がる東近江市。山あいの道が続く甲賀市。工場の灯りが並ぶ湖南市。
荷室には工具と部材が積まれている。
運転席には、以前より少し先を見られるようになった西村がいる。
ある夕方、守山市の住宅で修理を終えた彼は、帰り道にカーマッチ滋賀守山店の前を通った。
営業時間を終えた店内には、まだ灯りがついていた。
商談席には、新しいお客様が座っている。机の上には書類と、一枚の白い紙。
店は今日も、誰かの話を聞いている。
相談に来る人の中には、「守山市の店なら、守山市の人しか対応してもらえないのでは」と尋ねる人もいる。けれど、車が必要になる事情に市境はない。栗東市へ通勤する人が大津市へ転勤することもある。草津市で暮らす家族が長浜市の親を訪ねることもある。甲賀市の職人が東近江市の現場へ行き、湖南市の会社が守山市のお客様へ商品を届けることもある。滋賀県の暮らしは、道路の上でつながっている。
カーマッチ滋賀守山店が向き合うのは、検索画面に並ぶ地域名や数字だけではない。その向こうにいる一人の生活である。だから、問い合わせが短い一文でも、事情を決めつけない。「頭金なしで探したい」という希望の後ろに、手元資金を仕事のために残したい理由があるかもしれない。「通りやすいローンを知りたい」という言葉の奥に、何度も断られて傷ついた経験があるかもしれない。
店は、言葉の表面ではなく、その人が車を必要とする理由を聞く。
販売する車の台数だけを数えるなら、店の仕事は契約書に署名が入ったところで一区切りになるのかもしれない。
だが、本当の仕事はその先にある。
納車した車が、翌朝きちんとエンジンをかけること。
お客様が無理なく支払いを続けられること。
車に乗って仕事へ行き、家族を迎え、病院へ向かい、買い物をし、約束の場所へ到着できること。
一台の中古車が、その人の日常の中で役割を果たし続けること。
店は、未来そのものを売ることはできない。
ただ、未来へ向かうための車を、一緒に探すことはできる。
西村は赤信号で止まり、バックミラーに映る店を見た。
一年前、雨の中であの駐車場へ入った自分を思い出した。否決という二文字を抱え、自営業であることを言い訳のように説明し、誰かに「大丈夫だ」と言ってほしかった自分。
店は、大丈夫だとは言わなかった。
代わりに、何が必要かを教えてくれた。
信号が青に変わる。
西村は前を向き、アクセルを踏んだ。
白いバンは、夜の守山市を走り出す。
明日の朝、大津市で給湯器を直すために。
その午後、草津市で水漏れを止めるために。
週末、甲賀市の家へ家族と帰るために。
車は、ただ人を運ぶのではない。
仕事を運ぶ。約束を運ぶ。安心を運ぶ。もう一度やってみようと思う気持ちを運ぶ。
そして滋賀県守山市の小さな中古車販売店は、今日も一台ずつ、誰かの明日を送り出している。
その店の名は、カーマッチ滋賀守山店。
明日を運ぶ店である。
カーマッチ滋賀守山店へのご相談について
店舗紹介・ご相談案内
カーマッチ滋賀守山店は、滋賀県守山市を拠点に、守山市・栗東市・草津市・大津市・長浜市・東近江市・甲賀市・湖南市をはじめ、滋賀県内から中古車購入やローンに関するご相談を承っています。
一般的なオートローンをはじめ、状況に応じて信用回復ローン、自社ローンの選択肢をご案内します。自営業・個人事業主の方、転職後間もない方、過去の支払い状況などからローンに不安のある方も、まずは現在の収入や生活状況、ご希望の車、無理のない支払計画をお聞かせください。
店頭にご希望の中古車がない場合も、全国の中古車オークションなどからお探しできる場合があります。頭金なしでの購入についても相談可能ですが、審査結果、車両、契約条件によって異なります。
オートローン、信用回復ローン、自社ローンはいずれも審査・確認があり、可決や購入を保証するものではありません。車両価格だけでなく、諸費用、総支払額、月々の支払い、維持費、保証、整備内容、所有権などをご確認いただき、ご納得のうえでご契約ください。
「収入はあるのに、なぜかオートローンに通らなかった」
「自営業だから難しいと言われた」
「滋賀県で自社ローンや信用回復ローンを相談できる中古車販売店を探している」
「頭金を多く用意できないが、仕事や生活に車が必要」
そのようなお悩みも、一人で結論を出す前にご相談ください。お客様の過去だけでなく、今とこれからを大切にしながら、無理のない一台を一緒に考えます。

