滋賀県守山市のカーマッチ滋賀守山店と親子の再出発
2026/08/13
人生修理工場――止まってしまった人生を、もう一度動かす――
滋賀県守山市。琵琶湖から吹く風が少しずつ冷たくなり始めた十一月の朝、カーマッチ滋賀守山店のシャッターが静かに上がった。
店の前を走る車の音、道路の向こうに見える通勤途中の人々、遠くから聞こえる電車の響き。いつもと変わらない一日の始まりだった。
けれど、この店を訪れる人たちにとって、車を探すことは単なる買い物ではないことが多い。
仕事へ通うため。子どもを保育園へ送るため。高齢の親を病院へ連れて行くため。雨の日にも濡れずに買い物へ行くため。そして、過去につまずいた自分の人生を、もう一度前へ進めるため。
カーマッチ滋賀守山店は、故障した車を直す整備工場ではない。
それでも、店を訪れた人の止まりかけた暮らしが、一台の車によって再び動き始めることがある。
だから、いつの頃からか店のスタッフは、心の中でここをこう呼ぶようになっていた。
「人生修理工場」
もちろん、人生そのものを修理できるわけではない。過去を消すことも、誰かの未来を保証することもできない。ただ、今の事情を一つずつ聞き、その人が無理なく車を持てる方法を一緒に考えることならできる。
この物語は、滋賀県守山市にあるカーマッチ滋賀守山店と、一台のダイハツ・ムーヴを探しに来た、一人の女性の物語である。
止まった朝
午前九時十二分、守山市内の古いアパートの駐車場で、三十二歳の藤井美咲は何度目かのため息をついた。
キーを回しても、車は動かなかった。
弱々しい音が一度しただけで、エンジンは沈黙している。メーターパネルの灯りも頼りなく、冬の朝の冷気だけが車内に残った。
「お願い。今日だけでも動いて……」
祈るようにもう一度キーを回したが、結果は同じだった。
助手席には、保育園へ持っていく娘の通園バッグが置かれていた。後部座席では、五歳の娘・花が不安そうに母親の横顔を見ている。
「ママ、今日お休み?」
「ううん。大丈夫。ちょっとだけ待っててな」
そう答えながら、美咲はスマートフォンで時刻を確認した。保育園へ娘を送り、そのあと栗東市にある勤務先へ向かわなければならない。バスと電車を乗り継げば行けないことはないが、保育園の場所は駅から離れている。すでに時間はぎりぎりだった。
美咲の車は、十年以上前に知人から譲ってもらった軽自動車だった。走行距離は十五万キロを超え、エアコンの効きも悪くなっていた。車検のたびに修理費が増え、整備工場からは「そろそろ乗り換えを考えたほうがいい」と言われていた。
分かってはいた。
しかし、美咲には簡単に新しい車を買えない事情があった。
三年前、離婚前の生活費を補うために利用したカードの支払いが遅れた。元夫の収入が不安定になり、家賃や光熱費を優先するうちに、複数の支払いが重なった。離婚後は守山市へ移り、パートから契約社員になって少しずつ生活を立て直してきたが、過去の支払い状況への不安は消えなかった。
以前、別の中古車販売店でローンを申し込んだことがある。
結果は否決だった。
店員から詳しい説明はなく、「今回は難しいですね」とだけ言われた。その短い言葉が、美咲の中に深く残った。
車が必要なのに、ローンが利用できない。現金で一括購入するほどの貯金はない。けれど、車がなければ仕事を続けることさえ難しい。
まるで、人生の前にも後ろにも進めなくなったようだった。
その日は同じアパートに住む人に頼み、保育園まで送ってもらった。勤務先には遅刻の連絡を入れた。上司は「気をつけて来てください」と言ってくれたが、電話を切ったあとの美咲の胸には、申し訳なさと焦りが残った。
昼休み、美咲はスマートフォンで中古車を探した。
「滋賀県守山市 中古車販売店」
「滋賀県栗東市 自社ローン 中古車」
「滋賀県草津市 ローンに不安 車」
検索画面にはさまざまな広告が並んだ。「誰でも大丈夫」と思わせる強い言葉も目に入った。しかし、一度審査に落ちた経験のある美咲には、かえって不安だった。
本当に自分でも相談できるのか。最初は安く見えても、あとから高額な費用が加わるのではないか。頭金をすぐに用意できなくても、話を聞いてもらえるのか。
検索結果を何度も閉じかけたとき、「カーマッチ滋賀守山店」という名前が目に留まった。
店舗の案内には、オートローン、信用回復ローン、自社ローンなど、状況に応じた購入方法を一緒に検討すること、ローンに不安がある人もまずは相談できることが書かれていた。また、店頭在庫だけでなく、中古車オークションから希望に合う車を探す相談もできるとあった。
美咲はページを開き、閉じ、もう一度開いた。
口コミには、「話を決めつけずに聞いてくれた」「毎月の支払いまで相談できた」「車を売ることだけではなく生活を考えてくれた」といった内容が並んでいた。
それでも、すぐには問い合わせられなかった。
自分の過去を説明することが怖かったからだ。
支払いが遅れた理由を話せば、だらしない人だと思われるかもしれない。母子家庭だから無理だと言われるかもしれない。頭金を用意できないと伝えた瞬間、相手の態度が変わるかもしれない。
画面の「LINEで問い合わせ」という表示を見つめたまま、指が止まった。
その夜、美咲は保育園から娘と歩いて帰った。風は冷たく、途中から小雨が降り始めた。花は小さな傘を持ちながら、一生懸命歩いていた。
「ママ、車、もう動かへんの?」
「直るかもしれんけど、ちょっと難しいかな」
「じゃあ、新しい車にする?」
子どもにとっては簡単な話だった。壊れたなら、別のものに替えればいい。けれど大人の暮らしには、簡単には越えられない壁がある。
「新しい車、買えるかなあ」
美咲が独り言のように言うと、花は笑った。
「ママやったら大丈夫。だって、毎日お仕事行ってるもん」
その言葉に背中を押され、美咲は帰宅後、もう一度カーマッチ滋賀守山店のページを開いた。
長い文章は書けなかった。
『車が壊れてしまい、買い替えを考えています。以前ローンが通らなかったことがあります。頭金もすぐには用意できません。それでも相談できますか』
送信ボタンを押したあと、美咲はしばらくスマートフォンを伏せて置いた。
返事が来るのが怖かった。
ところが、十分ほどして届いたのは、予想していたような冷たい定型文ではなかった。
『お問い合わせありがとうございます。もちろんご相談いただけます。審査結果をお約束することはできませんが、現在のお仕事やご収入、ご希望の車、ご予算などを確認し、お客様に合った方法を一緒に考えます。まずは無理のない範囲で状況をお聞かせください』
美咲はその文章を二度読んだ。
「審査結果をお約束することはできません」
都合のいい断言ではなかった。だからこそ、信用できる気がした。
同時に、「一緒に考えます」という言葉が、冷え切っていた心の奥に小さく灯った。
翌日の夕方、美咲は来店の予約を入れた。
ムーヴを探す時間
土曜日の午前、美咲は娘の花と一緒に、守山市にあるカーマッチ滋賀守山店を訪れた。
店の前には何台かの中古車が並んでいた。大きな展示場ではない。けれど、車はきれいに整えられ、事務所の窓からは柔らかな明かりが漏れていた。
入口で迎えたスタッフは、美咲が名乗るとすぐに笑顔でうなずいた。
「藤井様ですね。お待ちしていました。寒かったでしょう。お子様も一緒にどうぞ」
店内には子どもが座れる椅子があり、花にはジュースが用意された。美咲は少しだけ肩の力を抜いた。
面談が始まると、スタッフは最初からローンの話を急がなかった。
今の車がどのような状態なのか。仕事はどこにあり、車を毎日どれくらい使うのか。保育園の送迎はあるのか。希望する車の大きさは。毎月、無理なく支払える金額はいくらか。車検や自動車税、任意保険、ガソリン代まで含めたとき、生活に負担が残らないか。
一つずつ、丁寧に確認していった。
「高い車をご提案して、毎月の生活が苦しくなってしまっては意味がありません。まずは、車に使える金額を一緒に整理しましょう」
スタッフはそう言い、紙の上に数字を書いた。
美咲の手取り収入、家賃、保育料、光熱費、通信費、食費、過去の支払い、毎月少しずつ残している予備費。恥ずかしいと思っていた数字が、一つずつ生活の現実として並んでいく。
スタッフは責めなかった。
「毎月の返済額だけで決めるのではなく、維持費も見ておきましょう。軽自動車なら普通車に比べて税金や燃料代を抑えやすい場合があります。通勤と送迎が中心なら、背が高く、乗り降りしやすい車が便利ですね」
そのとき、花が展示車両の写真を見ながら言った。
「ママ、これがいい。名前がムーヴやって。動くっていう意味みたい」
写真に写っていたのは、淡いパールホワイトのダイハツ・ムーヴだった。
派手ではない。けれど、室内は軽自動車としては広く、保育園の荷物や買い物袋も積みやすい。運転席からの視界もよく、狭い道が多い住宅街でも扱いやすそうだった。
「ムーヴか……」
美咲は名前を口にした。
止まってしまった自分の生活に、「動く」という名前の車が現れたことが、少し不思議に思えた。
ただし、店頭にあるその車は、美咲の希望条件とは少し違っていた。走行距離と装備、支払総額を考えると、もっと合う一台を探せる可能性があった。
「店頭にある車だけで決めなくても大丈夫です。全国の中古車オークションも含めて探せます。ただ、写真だけで仕入れるのではなく、評価点や修復歴、内外装の状態、機関の状態を確認します。安さだけを優先すると、納車後の修理費が増える場合がありますから」
スタッフは、中古車オークションの出品票の見方を説明した。
年式、走行距離、車検の残り、修復歴の有無、傷やへこみ、室内の状態、エンジンや足回りについての記載。美咲には初めて聞く言葉も多かったが、分からないところを質問すると、そのたびに言葉を変えて説明してくれた。
「中古車は、一台ごとに状態が違います。だから『この年式なら絶対安心』とも言えません。仕入れて終わりではなく、点検や整備をしたうえで、状態をご説明してお渡しすることが大切です」
美咲はうなずいた。
以前は、月々の金額しか見ていなかった。けれど、本当に必要なのは、買える車ではなく、安心して使い続けられる車だ。
次に、購入方法の説明があった。
まず一般的なオートローンを検討し、条件に応じて信用回復を支援する考え方のローン、さらに状況によって自社ローンという選択肢がある。ただし、どの方法にも確認や審査があり、誰でも必ず利用できるわけではない。頭金なしで相談できる場合もあるが、車両価格や支払回数、収入とのバランスによって条件は変わる。
「インターネットで『絶対に通る』という表現を見ることがありますが、私たちはそのような約束はできません。大事なのは、今の状況を正確に確認して、可能な方法を探すことです」
その言葉を聞き、美咲は思い切って過去のことを話した。
元夫の収入が途絶えたこと。生活費のためにカードを使ったこと。支払いが遅れたこと。離婚後、娘と二人で暮らし始めたこと。パートから契約社員になり、今は毎月安定した収入があること。そして、以前の中古車ローン審査で断られたこと。
話している途中、何度か声が詰まった。
スタッフは遮らず、最後まで聞いた。
「話してくださってありがとうございます。過去の事情だけで人を決めるのではなく、現在のお仕事や収入、これから無理なく支払いを続けられるかも含めて確認します。藤井様の場合、車はぜいたく品ではなく、仕事と子育てを支えるために必要なものですね」
美咲は、黙ってうなずいた。
その日、必要な情報を確認し、まずは事前の審査を進めることになった。運転免許証、収入が分かる書類、住所を確認できる書類など、準備するものも説明された。
帰り際、花がスタッフに尋ねた。
「ムーヴ、見つかる?」
スタッフはしゃがんで、花と目線を合わせた。
「お母さんと花ちゃんに合うムーヴを、一生懸命探すね。でも、大切な車だから、急いで適当に決めずに、ちゃんと調べてからにしよう」
花は満足そうにうなずいた。
店を出たあと、美咲の不安がすべて消えたわけではなかった。
審査がどうなるかは分からない。希望する車が予算内で見つかるとも限らない。けれど、来店前に感じていた「相談することさえ恥ずかしい」という気持ちは薄れていた。
自分の事情を話しても、扉は閉められなかった。
それだけで、一歩進めた気がした。
数日後、カーマッチ滋賀守山店から連絡が入った。
「藤井様、まず一つ目の方法について結果が出ました。残念ながら、ご希望の条件では難しいという回答でした」
美咲の胸が沈んだ。
やはり無理だったのか。
しかし、電話の向こうの声は続いた。
「ただ、ここで終わりではありません。別の方法で検討できる可能性があります。条件を整理して、信用回復ローンと自社ローンのどちらが現実的か確認させてください」
美咲は息を吐いた。
以前の店では、否決の二文字で会話が終わった。今回は違う。一つの道が閉じても、別の道を探してくれている。
その週、スタッフは滋賀県内だけでなく、複数の中古車オークションに出品されるムーヴを調べた。
草津市で日常の買い物に使われていたもの。大津市の法人が営業車として所有していたもの。長浜市から出品された四輪駆動車。東近江市で高齢のオーナーが大切に乗っていたもの。甲賀市や湖南市の会場から流通する車両。栗東市周辺の業者が出品した車両。
所在地だけで車の良し悪しは決められない。一台ごとの記録と状態が重要だった。
候補が見つかるたび、スタッフは年式、走行距離、装備、評価、想定される整備費、登録費用を確認した。車両価格が安くても、タイヤやバッテリー、ブレーキなどの交換が重なれば総額は上がる。反対に、少し車両価格が高くても、整備履歴が明確で消耗品の状態がよければ、長く乗るうえでは負担を抑えられることもある。
美咲には、候補車両の写真と説明が送られてきた。
一台目は価格が手頃だったが、内装の汚れが目立った。二台目は外観がきれいだったが、走行距離が多く、今後の整備費が気になった。三台目は条件に近かったが、競りが予算を超える可能性が高かった。
「これだけ探してもらって、決まらなかったら申し訳ないです」
美咲が送ると、スタッフからすぐに返信があった。
『気になさらないでください。車選びは、急いで決めることより、納得できる一台を探すことのほうが大切です。生活に必要な時期もあると思いますので、できるだけ早く、しかし状態の確認は省かずに進めます』
その文章を読み、美咲は初めて「車を買うこと」を少し楽しみに感じた。
一方、通勤は厳しい日々が続いた。
朝は花を自転車に乗せて保育園へ行き、守山駅まで急ぎ、電車で栗東方面へ向かう。雨の日はレインコートの中まで濡れた。帰りにスーパーへ寄ると、買い物袋と通園バッグで自転車のハンドルが重くなった。
それでも、美咲は以前ほど絶望していなかった。
今は、待つ理由があった。
ムーヴが見つかれば、朝の時間が変わる。花が雨に濡れずに済む。仕事の早番にも対応できる。休日には守山市内だけでなく、琵琶湖岸や草津市のショッピング施設、大津市の公園にも出かけられる。
車一台で人生のすべてが変わるわけではない。
けれど、美咲たち親子の行動範囲と選択肢は、確実に広がる。
そして一週間後、待っていた連絡が届いた。
『藤井様、ご希望に近いムーヴが見つかりました』
見つかった傷
見つかったムーヴは、平成後期型のパールホワイトだった。
走行距離は七万キロ台。車検は残っていなかったが、必要な点検と整備、登録まで含めても、検討していた予算の範囲に収まる可能性があった。修復歴はなく、内装にも大きな汚れはない。前の所有者が定期的に整備していた記録も確認できた。
ただし、左後ろのドアとバンパーには細かな傷があった。
スタッフは、きれいに見える写真だけではなく、傷が分かる角度の写真も美咲に送った。
「この傷は直せます。ただ、すべてを新品同様に仕上げると、その分だけ費用が上がります。安全性に影響する箇所ではありません。目立ちにくく補修し、点検整備を優先する方法もあります」
美咲は写真を拡大した。
確かに傷はあった。けれど、初めて見た瞬間から、その車が気になっていた。
誰かが乗ってきた時間の跡。完璧ではないけれど、まだ十分に走れる車。
どこか自分に似ていると思った。
過去に傷があるからといって、これから走れないわけではない。
「この車でお願いします」
そう伝えると、スタッフはすぐに契約を勧めるのではなく、もう一度総額と支払計画を確認した。
車両本体、車検整備、登録に必要な費用、税金や保険、納車までに必要となる費用。月々の支払額だけを小さく見せるのではなく、最終的な支払総額と、支払いが続く期間を説明した。
購入方法についても、条件付きながら利用できる見通しが立っていた。頭金を大きく用意できない美咲の事情を踏まえ、毎月の生活に無理が出にくい計画に調整された。
「ご契約前に、分からない点はありませんか。少しでも気になることがあれば、今日決めずに持ち帰って考えていただいても大丈夫です」
美咲は契約書と見積書を最初から読み直した。
分からない言葉を質問し、スタッフが説明する。支払日を確認し、任意保険についても相談する。万が一、収入や生活状況が変わったときは、問題を放置せず、早めに連絡することも約束した。
そして、美咲は自分の意思で署名した。
「お願いします」
その瞬間、美咲の中で何かが動き始めた。
ところが、翌日の夕方、店から電話が入った。
「藤井様、申し訳ありません。車両の最終確認で、追加でお伝えしたいことが見つかりました」
美咲の心臓が強く鳴った。
スタッフの説明によれば、仕入れ前の再確認で、エンジン始動時にわずかな異音があるという報告が入った。重大な故障と決まったわけではない。しかし、現状の情報だけで仕入れるのはリスクがある。
「予定どおり進める方法もありますが、納車後の安心を考えると、私たちは一度止めたほうがよいと判断しています」
美咲は言葉を失った。
ようやく決まったと思ったのに。
また止まるのか。
「ほかの車を探すとなると、また時間がかかりますよね」
「はい。数日で見つかることもありますが、お約束はできません。ただ、この情報を知ったまま、急いでこの車をお渡しすることはできません」
電話を切ったあと、美咲はしばらく台所の椅子に座っていた。
花が隣に来て、顔をのぞき込んだ。
「ムーヴ、なくなったん?」
「うん。ちょっと悪いところがあるかもしれんから、別の車を探してくれるって」
「じゃあ、違うムーヴが来るんやな」
花はあっさりと言った。
美咲は苦笑した。
子どもは、立ち止まることを終わりだと思わない。道が違えば、別の道へ行けばいいと考える。
翌日、美咲は店へ連絡した。
「待ちます。長く乗りたいので、安心できる車を探してください」
スタッフは「ありがとうございます」と答え、再び車探しを始めた。
しかし、その直後、美咲の勤務先で人員配置の変更が発表された。来月から早朝勤務の日が増えるという。始発電車では間に合わない日もあった。
上司からは、「車の準備はできそうですか」と尋ねられた。
「今、探してもらっています」
そう答えたものの、いつ見つかるかは分からない。早朝勤務に対応できなければ、契約更新に影響する可能性もあった。
焦りが再び大きくなった。
美咲は夜になると、滋賀県内の中古車販売店のページを何件も見た。守山市、栗東市、草津市、大津市、長浜市、東近江市、甲賀市、湖南市。検索範囲を広げれば、安いムーヴはいくつも出てきた。
中には、詳しい総額が分からない車もあった。状態説明の少ない車、修復歴の表示が分かりにくい車、月々の支払額だけが大きく書かれた広告もあった。
今すぐ決めれば間に合うかもしれない。
そんな気持ちが湧いた。
美咲はカーマッチ滋賀守山店へメッセージを送った。
『仕事の都合で、できるだけ早く車が必要になりました。ほかのお店で安いムーヴを見つけました。そちらで買ったほうが早いでしょうか』
店にとっては、客を失うかもしれない質問だった。
それでも返事は誠実だった。
『お急ぎの事情、承知しました。他店のお車を検討されることも選択肢です。ただ、購入前に、支払総額、修復歴、保証内容、納車前整備の範囲、追加費用の有無をご確認ください。もし車両情報を見てよければ、判断するときの確認項目をお伝えします』
自分の店で買わせるためではなく、美咲が失敗しないための返事だった。
美咲は掲載ページを送り、確認してもらった。すると、本体価格とは別に必要な費用が多く、最終的な総額は予算を超える可能性が高いことが分かった。保証も短く、納車前整備の内容も明確ではなかった。
「安く見える」と「無理なく安心して買える」は同じではなかった。
美咲は、もう一度待つことにした。
その二日後、スタッフが一台の車両情報を見つけた。
滋賀県外の中古車オークションに出品予定の、シャンパンゴールドのダイハツ・ムーヴ。派手さはないが、汚れが目立ちにくく、年式と走行距離のバランスがよい。ワンオーナーで、点検記録も残っていた。修復歴はなく、エンジンや足回りにも大きな注意事項は記載されていない。
ただし、予算はぎりぎりだった。
競りの価格が上がれば見送らなければならない。
スタッフは上限金額を美咲と確認した。
「上限を超えてまで落札することはしません。焦って予算を崩すと、納車後の生活が苦しくなります」
オークション当日。
美咲は仕事中も落ち着かなかった。休憩時間になるたび、スマートフォンを確認した。連絡はまだない。
午後三時四十分、短いメッセージが届いた。
『藤井様、ムーヴを予算内で確保できました』
画面を見たまま、美咲は動けなかった。
もう一通、写真が届いた。
柔らかな金色の車体が、会場の明るい照明の下に停まっている。特別に新しい車でも、高級な車でもない。
それでも美咲には、そのムーヴが未来から迎えに来た車のように見えた。
『ありがとうございます。本当にありがとうございます』
何度も打ち直し、結局それだけを送った。
だが、物語はまだ終わらなかった。
車両が店舗へ到着し、点検が始まると、前輪のタイヤに想定以上のひび割れが見つかった。バッテリーも弱っていた。ワイパーゴムやエンジンオイルも交換時期だった。
スタッフは見つかった内容を写真とともに説明した。
「タイヤは安全に関わるため交換します。バッテリーも、このままでは冬場に不安があるので対応します」
美咲は追加費用が大きくなるのではないかと身構えた。しかし、見積もり段階で一定の整備費が想定されており、予算の組み方を調整することで、当初確認した総額から大きく外れずに進められるという。
点検、整備、車検、登録。車が道路を安全に走るためには、見えないところで多くの作業が必要だった。
美咲は、整備中のムーヴを一度見に行った。
リフトに上がった車からタイヤが外されていた。店頭で完成車を見るときには意識しない部分まで確認されている。
「車って、見えないところのほうが大事なんですね」
美咲が言うと、スタッフはうなずいた。
「人の生活も似ているかもしれません。外からは普通に見えても、誰にでも事情があります。見える部分だけで判断すると、大切なことを見落とします」
美咲は、白い作業灯に照らされたムーヴを見上げた。
傷ついたところを隠して売るのではなく、状態を確認し、必要な部分を整えてから送り出す。
それはまるで、自分自身のこれまでを受け入れながら、これからの暮らしを組み立て直す作業のようだった。
人生は、新品には戻らない。
過去をなかったことにもできない。
けれど、今の状態を知り、必要なところを整えれば、また前へ進むことはできる。
美咲は初めて、「過去に失敗した自分」ではなく、「ここまで生活を立て直してきた自分」を認められる気がした。
人生修理工場
納車の日は、十二月のよく晴れた土曜日だった。
朝の光が、カーマッチ滋賀守山店の前に停められたシャンパンゴールドのムーヴを照らしていた。洗車された車体は穏やかに輝き、フロントガラスの向こうには整えられた車内が見えた。
美咲と花が店に着くと、スタッフが車の前で迎えた。
「お待たせしました。藤井様のムーヴです」
花は駆け寄り、車の周りを一周した。
「金色や! ママ、見て。きれいやで」
美咲はすぐには返事ができなかった。
最初に問い合わせた夜のことを思い出していた。壊れた車。雨の帰り道。ローンへの不安。送信ボタンを押すまでの長い時間。
目の前のムーヴは、ただの中古車ではなかった。
諦めずに相談した自分と、状況を一緒に整理してくれた店と、何度も候補を探し直した時間。そのすべてが形になったものだった。
納車説明では、スタッフが急ぐことなく、一つずつ操作を確認した。
エンジンのかけ方、ライトとワイパー、エアコン、給油口、タイヤの確認方法、万が一警告灯がついた場合の連絡先。中古車としての状態、交換した部品、今後のオイル交換の目安、車検や日常点検の必要性も説明された。
「納車したら終わりではありません。乗っていて気になる音や違和感があれば、早めにご連絡ください。小さなことでも大丈夫です」
美咲は書類を受け取り、最後にキーを渡された。
手のひらに乗った小さな鍵は、想像していたより軽かった。
けれど、その鍵で開く未来は大きかった。
運転席に座り、シートとミラーを合わせる。助手席には花が座り、うれしそうに窓の外を見ていた。
エンジンをかける。
静かな振動とともに、ムーヴが目を覚ました。
「動いた!」
花が笑った。
その当たり前の一言に、美咲の目から涙がこぼれた。
店を出る前、スタッフが窓越しに声をかけた。
「安全運転で。これからもよろしくお願いします」
美咲は涙を拭き、深く頭を下げた。
「こちらこそ、本当にありがとうございました」
ムーヴはゆっくりと、カーマッチ滋賀守山店の駐車場を出た。
最初に向かったのは、特別な観光地ではなかった。近所のスーパーだった。
米、牛乳、トイレットペーパー、花の好きなヨーグルト。これまでは自転車で持ち帰れる量を考えながら買っていたものを、今日は荷室へ積める。
「ママ、いっぱい買えるな」
「ほんまやな。でも買いすぎたらあかんで」
二人で笑った。
翌週から、美咲の朝は変わった。
雨が降っても、花を濡らさずに保育園へ送れる。早朝勤務の日も、余裕を持って栗東市の職場へ到着できる。仕事帰りに草津市へ寄って買い物をすることもできた。休日には大津市の公園へ行き、琵琶湖を眺めながら弁当を食べた。
春には、長浜市まで足を延ばした。湖岸道路を走り、窓の外に広がる琵琶湖を花が飽きずに眺めていた。夏には東近江市の自然公園へ行き、秋には甲賀市と湖南市を巡った。
以前の美咲にとって、守山市から遠くへ出かけることは大きな決断だった。電車の時間、乗り換え、荷物、子どもの疲れを考えれば、行きたい場所があっても諦めることが多かった。
ムーヴが来てから、「行けない」が「どうやって行こう」に変わった。
車が人生を魔法のように変えたわけではない。
毎月の支払いはある。ガソリン代も、保険料も、税金も必要だ。オイル交換やタイヤの管理も忘れてはいけない。美咲は支払日をカレンダーに記録し、給与が入ると先に必要額を分けた。
それは負担ではなく、自分の暮らしを守るための約束だった。
半年後、美咲は勤務先で正社員登用の話を受けた。
早朝勤務にも安定して対応し、遅刻や欠勤が減ったこと。仕事を覚え、新しく入った人を支える姿勢が評価されたという。
上司から話を聞いた帰り、美咲は駐車場のムーヴに乗り込んだ。ハンドルに手を置き、しばらく前を向いたまま動けなかった。
三年前、離婚して守山市へ来たとき、美咲は自分の人生が壊れたと思っていた。
支払いの遅れ。ローン審査の否決。故障した車。仕事と子育てに追われる日々。何をしても、過去が前に立ちはだかるように感じていた。
けれど、本当に壊れていたのは人生ではなかった。
自分を信じる気持ちが、少し弱っていただけだった。
車の点検と同じように、今の状態を確認する。無理のある部分を見直す。必要な支えを借りる。そして、一度に遠くまで行こうとせず、走れる距離から進んでいく。
そうすれば、人はもう一度動ける。
その年の冬、美咲はムーヴのオイル交換のため、カーマッチ滋賀守山店を訪れた。
納車から一年。ムーヴの走行距離は、一万キロ近く増えていた。
「よく走りましたね。調子はいかがですか」
スタッフが尋ねると、美咲は笑った。
「すごく助かっています。正社員にもなれました。花とも、いろいろなところへ行けました」
待合スペースで絵を描いていた花が、一枚の紙を持ってきた。
そこには、金色の車と、手をつないだ二人の人、その横に店らしい建物が描かれていた。建物の上には、子どもの字でこう書かれていた。
『じんせいしゅうりこうじょう』
スタッフは驚いて、美咲を見た。
「これ、花ちゃんが考えたんですか」
美咲は首を振った。
「私が家で話したんです。このお店は、車を売るだけじゃなくて、止まっていた私たちの生活を動かしてくれた、人生修理工場みたいなところやなって」
スタッフは絵を見つめ、少し照れたように笑った。
「私たちが直したわけではありませんよ。藤井様が、ご自身で相談して、ご自身で計画を立てて、約束どおり支払いを続けてこられたんです。私たちは、動き出すための車を一緒に探しただけです」
「それでも、一人では探せませんでした」
美咲は店の窓から、駐車場のムーヴを見た。
冬の弱い日差しが車体に反射していた。納車の日ほど新しくは見えない。ドアの内側には、花が靴でつけた小さな汚れがある。荷室には買い物用の袋と、休日に使う折り畳み椅子が積まれている。
それは展示されるための車ではない。
暮らしの中を走る車だった。
その後も、カーマッチ滋賀守山店にはさまざまな人が相談に訪れた。
守山市で転職し、通勤用の軽自動車を探す人。栗東市で家族が増え、ミニバンへの乗り換えを考える人。草津市で初めて中古車を買う若者。大津市から、ローンに不安があると相談に来る人。長浜市で冬の道に備え、四輪駆動車を探す人。東近江市で親の通院に使う車が必要になった人。甲賀市で仕事用の車を探す個人事業主。湖南市で今の車を手放し、維持費の抑えやすい車へ乗り換えたい人。
事情は一人ずつ違う。
一般的なオートローンを利用できる人もいれば、現在とこれからを確認しながら信用回復ローンを検討する人もいる。条件に応じて自社ローンを相談する人もいる。頭金を準備できる人もいれば、頭金なしで相談を始める人もいる。
どの方法でも、結果を最初から約束することはできない。
だからこそ、カーマッチ滋賀守山店は、強い言葉で期待だけを膨らませるのではなく、話を聞くところから始める。
収入と支出のバランス。車が必要な理由。希望する車種。毎月無理なく支払える金額。購入後に必要な維持費。店頭在庫だけでなく、中古車オークションから探す場合の注意点。車両の状態と総支払額。
一つずつ確認し、一人ずつ違う道を探す。
相談の結果、希望どおりにならないこともある。今は購入時期を延ばしたほうがよいと伝えることもある。希望車種の価格が予算と合わず、別の車を提案することもある。
それは、車を売ることだけが目的ではないからだ。
納車後も続く生活を守ること。
その人が車とともに前へ進み続けられること。
それが、本当の意味での出発だと考えているからだ。
ある雨の日、店の前にシャンパンゴールドのムーヴが停まった。
運転席から美咲が降り、助手席から少し背が伸びた花が降りてきた。二人は店へ入り、花が大切そうに箱を差し出した。
「これ、みんなで食べて」
箱の中には、二人で焼いたクッキーが入っていた。車の形と、鍵の形をしている。
「今日、近くまで来たので寄りました」
美咲はそう言い、少し誇らしそうに続けた。
「今度、職場で新しい仕事を任せてもらえることになりました。草津市と大津市の取引先へ行くことも増えるんです。あのとき車を諦めていたら、この話も受けられなかったと思います」
スタッフはムーヴを見た。
雨粒のついた車体は、初めて店へ届いた日よりも、ずっと生き生きして見えた。
「ムーヴも働いていますね」
「はい。この子が一番の働き者です」
美咲は笑った。
帰る時間になり、二人はムーヴへ乗り込んだ。エンジンがかかり、ワイパーが雨粒を左右に払う。
花が窓を少し開け、大きく手を振った。
「また来るね!」
ムーヴは静かに道路へ出て、守山の街の中へ走っていった。
赤信号で止まり、青になれば進む。
曲がり角では速度を落とし、迷ったときは道を確かめる。
人生も、きっと同じだ。
いつも順調に走れるわけではない。止まる日もある。遠回りする日もある。過去についた傷が消えないこともある。
それでも、止まった場所が終点とは限らない。
助けを求め、現在地を確かめ、自分に合う道を選べばいい。
カーマッチ滋賀守山店は、人生を修理することはできない。
しかし、滋賀県守山市で、栗東市、草津市、大津市、長浜市、東近江市、甲賀市、湖南市、そして滋賀県各地から訪れる人の話を聞き、暮らしを前へ動かす一台を一緒に探すことはできる。
オートローン、信用回復ローン、自社ローン。頭金についての相談。中古車販売店としての車選び。全国の中古車オークションを活用した車探し。
選択肢は一つではない。
大切なのは、強い言葉だけを信じて急ぐことではなく、今の自分に合った方法を、納得できるまで相談することだ。
もし、過去の支払い状況が気になっているなら。
もし、ほかの店でローンの利用が難しかった経験があるなら。
もし、頭金をすぐに用意できず、車の購入を諦めかけているなら。
一人で「無理だ」と決めてしまう前に、今の状況を話すことから始めてほしい。
審査結果を約束することはできない。希望した車が必ず見つかるとも限らない。
けれど、現在の暮らしとこれからを大切にしながら、可能な方法を一緒に考えることはできる。
人生は、ときどき動かなくなる。
そんなとき、必要なのは大げさな奇跡ではないのかもしれない。
事情を聞いてくれる人。
無理のない計画。
安全に走れる一台。
そして、もう一度キーを回してみようと思える、小さな勇気。
今日も滋賀県守山市のカーマッチ滋賀守山店では、シャッターが上がる。
誰かの暮らしが、もう一度動き始めるかもしれない一日が始まる。
店の前を、一台のムーヴが通り過ぎていく。
運転席には、前を向く美咲。
助手席には、笑顔の花。
バックミラーの中で、カーマッチ滋賀守山店が少しずつ遠ざかる。
けれど、二人はもう振り返らなかった。
フロントガラスの向こうには、雨上がりの滋賀の空が広がっている。
ムーヴは、その名のとおり、静かに、確かに、二人の人生を前へ運んでいた。
――人生修理工場。
そこは、壊れた人生を新品に戻す場所ではない。
傷も、過去も、迷った時間も抱えたまま、それでも再び走り出すための一台を探す場所。
滋賀県守山市、カーマッチ滋賀守山店。
今日もまた、誰かの「もう一度」が、ここから動き始める。
カーマッチ滋賀守山店では、滋賀県守山市を中心に、栗東市・草津市・大津市・長浜市・東近江市・甲賀市・湖南市など滋賀県各地から、中古車購入やローンに関するご相談を承っています。オートローン、信用回復ローン、自社ローンなど、お客様の状況に応じた方法を一緒に検討します。頭金について不安がある方、過去の支払い状況が気になる方も、まずは現在の状況をお聞かせください。審査結果を保証するものではありませんが、無理のない支払計画と、ご希望に合う中古車探しを丁寧にお手伝いします。

