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自己破産と車のローン:債務整理の現場でよくある「車の扱い」を詳しく解説
2025/05/06
自己破産を検討している方から、非常に多く寄せられる質問のひとつが、「車のローンが残っている場合、車はどうなるのか?」というものです。
日常生活に欠かせない手段として車を使っている人にとって、車の所有継続は非常に重要な問題です。本記事では、自己破産手続きにおいて車がどのように扱われるのか、どのような条件で手元に残すことができるのか、法律の専門的視点と実務的観点から詳しく解説いたします。
1. 自己破産とは?財産の処理が前提の「免責制度」
自己破産とは、返済不能な債務を法的に整理するための手続きであり、最終的には裁判所の免責許可によって借金が帳消しになります。
ただし、借金の帳消しと引き換えに、一定以上の資産は処分・換価され、債権者への分配に充てられます。つまり、「持っている財産を手放すこと」が前提となる制度です。
ここでいう「財産」には現金や不動産のほか、車両も含まれます。したがって、車にローンが残っているかどうか、所有権が誰にあるかは非常に重要な判断基準になります。
2. 車の所有者は誰か?—「所有権留保」の確認が最優先
自己破産の相談を受けた際に最初に確認すべきポイントは、**車検証に記載されている「所有者欄」**です。多くのローン契約では、完済までの間、ローン会社や販売店が「所有権留保(留保所有権)」を保持しており、実質的にその車両は債務者の所有物ではありません。
所有者がディーラーやローン会社の場合(所有権留保あり)
この場合、車はあくまでローン会社のものであり、自己破産により債務者がローンの返済を継続できなくなると、所有者(ローン会社)は担保権の実行として車を引き揚げます。
ローン残債が免責される一方で、車を保持することは基本的にできません。どれほど使用頻度が高くても、ローン中の車両は手放すことが原則です。
3. 所有者が本人名義の場合:車の評価額とローンの関係に注目
一方、車検証の所有者欄が本人(債務者)の名前になっている場合、車は「自己所有」として破産財団に組み込まれます。
この場合の処理は次のように分かれます:
① 車両の時価が20万円を超える場合(一般的な基準)
管財事件として扱われ、破産管財人が車両を売却(換価)して債権者に配当します。たとえローンが残っていたとしても、車両の時価が一定以上であれば「価値のある資産」と見なされ、手放さざるを得ません。
② 車両の価値が低い場合(時価20万円未満)
家庭用の古い軽自動車や、小型車で市場価値が著しく低い車両は「自由財産」として保持が認められるケースもあります。ただし、ローンが残っている場合には、ローン会社との契約状況により取扱いが異なります。
4. ローン付き車の扱い:債権者との関係に注意
所有権が本人にある場合でも、車両にローンの担保権(譲渡担保・所有権留保)が設定されていると、債権者は担保実行権限を有しています。つまり、ローンの支払いが止まれば、債権者はその車を差し押さえて売却する権利を持っているということです。
したがって、自己破産の申立てによりローン返済が停止されれば、車両は差し押さえ・引き揚げとなるケースが大多数です。
5. 破産後も車を保持したい場合の代替手段
どうしても車が必要な場合、以下のような選択肢が考えられます。
① 破産申立て前に完済する
ローンをすでに完済していて、車両の価値が20万円未満であれば、自由財産として保持可能です。ただし、申立て直前の財産移動(売却や贈与)は「否認対象」となる可能性があるため、慎重な対応が必要です。
② 家族名義で新たに購入(実質利用)
破産後に車が必要な場合、家族名義で車を購入・登録し、債務者が利用する形をとるケースもあります。ただし、これは形式的所有と実質所有が問われる可能性があり、裁判所の判断次第で資産と見なされるリスクがあります。
③ 自社ローンで再取得
自己破産後、しばらくは通常のオートローン審査に通ることは非常に困難です。しかし、信販会社を通さず、販売店が直接ローン契約を行う**自社ローン(例:カーマッチなど)**であれば、信用情報に問題がある方でも利用可能なケースがあります。
ただし、金利が高く設定されることや、車種・返済条件に制限があることを理解しておく必要があります。
6. 自己破産と車の扱いに関する実務上の注意点
- ローン契約書、車検証、見積書などの事前整理が重要です。
- ローン残債と時価評価の差額によって、手元に残す可否が変わります。
- 自己破産後に車を保持したい場合は、破産管財人や弁護士との事前相談が不可欠です。
- 虚偽申告(名義変更による隠蔽)は「免責不許可事由」となり得るため、絶対に避けるべきです。
まとめ:車のローンが残っている場合、原則は「引き揚げ」—ただし例外もあり
車にローンが残っている状態で自己破産をすると、多くの場合は所有権留保により車を手放すことになります。ただし、ローンが完済済であることや、車両の価値が非常に低いことなどの条件を満たせば、手元に残すことも可能です。
「車がないと生活できない」と感じる方も多くいらっしゃいますが、焦って手続きを進めるのではなく、法的なリスクを理解したうえで、弁護士や司法書士などの専門家に必ず相談することが重要です。